常に前進し続けるための、試される経営力(CEOブログ)

2026年7月から8月にかけて、上場する中堅ゲーム会社9社(コロプラ、gumi、KLab、バンク・オブ・イノベーション、ドリコム、Aiming、アカツキ改めサニーズホールディングス、マイネット、enish)が、四半期または中間期の決算を相次いで開示しました。並べて見ると、多くの社が増益を計上しています。

この増益の相当部分には、共通の外部要因があります。2025年12月に全面施行された、スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律(通称:スマホ新法。プラットフォーム事業者の寡占に規制をかけ、アプリ外決済への誘導を解禁する法律です)によって、各社が支払うプラットフォーム手数料の負担が軽くなったためです。

スマホソフトウェア競争促進法の解説|ビジネスロイヤーズ、2026年

自社の増収増益要因を分解したとき、規制変更や市場環境といった外部要因と、営業体制や商品力といった自社要因のどちらがどれだけ寄与しているかを、経営者自身が把握できているか。これは業種を問わない論点です。外部要因による水準訂正は、翌年以降は前年比較の対象に入り、消えます。増益の理由を正しく切り分けていない会社ほど、その年の反動を過大に受けます。

中堅ゲーム会社9社という、意思決定のケーススタディ

この9社を取り上げるのは、ゲーム業界の話をするためではありません。大手ほどの資本力もなく、受託専業ほどリスクを外部に転嫁できるわけでもない、という「中間層特有のジレンマ」が、業種を問わず多くの経営者に当てはまる構図だからです。

9社は、ヒット商品によって数百人規模の組織へ急拡大した企業群です。開発費・広告費・運営費を自己負担する一方、大手のように過去のヒット商品を長期にわたり販売し続ける在庫型の収益もなく、玩具・映像・イベントといった展開先も限られています。ただし、固定費の絶対額そのものは、この数年でかなり絞り込まれています。ある社の連結従業員数は、前年同期比で200名近く減少しました。

身軽になった中堅企業が、限られた手元資金をどこに配分するかという意思決定の実例が、9社分同時に観察できる状況にあります。

資源配分、4つの選択肢

9社の適時開示を並べて読むと、資源の配分先は次の4つに収束します。

1つ目は、自社の中核資産(保有するブランドや知的財産、顧客基盤)を掘り下げる道です。既存の強みを、隣接する事業領域へ広げていく方向です。

2つ目は、本業と直接関係の薄い財務資産の運用や、投機性の高い新規事業に踏み出す道です。ゲーム業界では暗号資産の保有・運用という形で現れていますが、一般化すれば、本業のキャッシュフローとは別の変動要因を経営に持ち込む選択です。

3つ目は、自社が内部で培ってきた技術やノウハウを、外部向けの新しい事業として立ち上げる道です。社内のオペレーションで磨いた仕組みを、他社向けのサービスとして外販する方向です。

4つ目は、生成AIなどの技術で自社の費用構成そのものを変える道です。新しい収益を生むわけではありませんが、少ない人数で同等以上の仕事を回せる体制へ移行することで、固定費の重さを軽くします。

9社は、この4つのどれか一つを選んでいるわけではありません。複数を同時に進める社もあれば、一つに集中する社もあります。

選択の分かれ方を、事例で見る

バンク・オブ・イノベーションは、大型RPG1本に開発資源を集中させながら、他社IPとの共同開発契約も結んでいます。中核資産への集中投資という、専業特化型の典型です。この型は成功時のリターンが大きい一方、9年に及ぶ開発期間のように、投資回収までの時間が長期化するほど、市場環境の変化という別のリスクを抱え込みます。

ドリコムは、自社IPを出版・映像・グッズへ広げる展開に加えて、財務資産の運用と技術の外販の両方に言及しており、9社の中では最も明確に複数の道を同時に歩む姿勢を打ち出しています。単一資産への依存を避け、複数の収益源を並行して育てる分散型の意思決定です。

アカツキ改めサニーズホールディングスは、2026年6月にPR・タレント事業を手がけるサニーサイドアップグループのTOBを成立させました。取得価額は124億1,900万円、議決権比率は63.42%です。

アカツキ、サニーサイドアップグループとの経営統合に向けたTOBが成立|WWD JAPAN、2026年6月

M&Aの実務でいえば、取得価額と対象企業の純資産の差額はのれんとして計上され、その回収可能性は買収後の統合プロセス(PMI)の巧拙に左右されます。今回は共同代表制が採用されており、経営体制の統合がうまくいかなければ、人材の流出という形でのれんの毀損リスクが顕在化します。評価すべきは、統合発表時の期待値ではなく、数年後に実際のシナジーが数字に表れているかどうかです。

同社は同じ時期に、子会社を通じたAI事業への本格参入も発表しました。

アカツキ、AI事業への本格参入を発表|gamebiz、2026年5月

M&Aと新規事業を同時に進められたのは、ゲーム事業とTOB後の実業の両方から現金を生み出せる体力があったからです。逆にいえば、この2つを同時に走らせられる会社は、9社の中でも限られています。

KLabは、GPUサーバーの販売と運用受託を組み合わせた事業に参入しました。

KLab、GPU AIクラウド事業に参入|KLab株式会社、2025年9月

顧客がサーバーを購入し、その運用をKLabが受託する仕組みで、自己資金を使わずに調達を進められる仕組みです。ただし、自己資金を使わない調達であっても、在庫リスクと与信リスクは自社が負います。「元手がかからない」という説明だけを見て、リスクがないと判断するのは早計です。

コロプラは、社員の9割以上が日常的に生成AIを活用しているとウェビナーで説明しています。広告宣伝費を前年同期の9億4,600万円から7,100万円へ圧縮できた背景には、こうした業務全体でのAI活用があると考えられます。ただし、これは固定費を軽くする動きにとどまり、新しいパイプライン(PC・コンシューマ向け10本)の投資回収力を証明するものではありません。費用構成の改善と、投資判断の妥当性は、切り分けて評価すべき別の論点です。

この先数年をBest/Worst/Most Likelyで見る

シナリオ前提条件想定される着地
Best制度効果が定着し、複数社が新規事業を軌道に乗せる中堅層の収益体質が改善し、独立経営を維持する社が増える
Most Likely制度効果が一巡し、財務資産の価格変動が業績を左右する社が増える複数社でM&Aや資本提携が発生し、業界の再編が進む
Worst財務資産価格の下落と大型新作の不振が重なる資本再編が常態化し、事業の切り出し売却が増える

保守的に見て、Most Likelyのシナリオを前提に資源配分を考えるべきだと私は考えます。

「持分を持て」という処方箋が見落としているもの

中核資産への投資を強化し、外部に依存する収益の組み立てから脱却すべきだ、という処方箋は、多くの経営書で語られる王道です。ただし、この処方箋には見落とされがちな前提があります。中核資産への投資には、まとまった現金が必要だという点です。

9社の中で、まとまった現金を独自に持つのは実質2社(コロプラ・サニーズHD)にとどまります。他の社は、財務資産の運用や技術の外販といった別の道で資金を作らなければ、中核資産への投資に振り向ける原資そのものがありません。

一般化すると、次のようになります。「自社の強みに集中投資すべき」という助言は、正しい方向であっても、それを実行できるだけの資金体力があるかどうかの確認(いわば自社に対するデューデリジェンス)を、先に済ませておく必要があります。体力の確認を飛ばして助言だけを実行しようとすると、途中で資金が尽きます。

自社の体力別に選ぶべき、組み合わせの物差し

自社の状態優先すべき組み合わせ
現金に厚みがあるAIで費用構成を軽くしつつ、中核資産への投資と外部への技術販売の両方に、時間をかけて資源を積み増す
本業は黒字だが余剰現金は薄いまずAIで費用構成を変え、浮いた資源を中核資産に再投資する。財務資産の運用は本業の利益で無理なく賄える範囲にとどめる
本業が赤字で現金の持ち時間が短い複数の道への同時展開を一度止め、成功報酬型の契約や事業売却を含めた現実的な選択肢に絞る

賭けの数を増やすことは、資金体力が伴わない限り、リスク分散ではなくリスクの積み増しにしかなりません。

まだ埋まっていない、5つ目の白地

ここまで見てきた4つの道以外に、9社の誰も本格的に踏み込んでいない領域があります。保有する中核資産を、AIとの対話や生成体験と組み合わせ、従来よりハードルが低い形で顧客接点をつくる方向です。業界の外側では、こうした形態のサービスがすでにユーザー数を伸ばし始めています。

これは業種を問わない論点です。自社が保有するブランドや顧客基盤を、AIによって従来より軽く、安く、早く顧客に届けられないか。競合がまだ踏み込んでいない領域ほど、最初に動いた企業が優位に立ちやすくなります。

読者自身の会社で、明日から検討できる論点

自社の直近の増収増益要因のうち、外部環境によるものと、自社の実力によるものを、数字で分解できているか。

自社が資源を配分している先を、中核資産への投資、財務資産の運用、外部への技術販売、費用構成の改善という4つに仕分けたとき、どこに偏っているか。

中核資産への投資を強化する方針を掲げているなら、それを実行できるだけの現金体力が、実際に自社にあるか。

複数の新しい取り組みを同時に走らせているなら、そのうちどれかが外れたときに、会社として耐えられる範囲に収まっているか。

競合がまだ踏み込んでいない、自社の強みをリスクの低い形で新しい顧客接点に転用する余地が、どこかに残っていないか。