LEDボリュームを「撮影機材」と捉えている経営者へ。その発想だと、たぶん投資判断を間違えます(CEOブログ)

多くの経営者がLEDボリュームを映画スタジオの設備だと思っている

LEDバーチャルプロダクション、いわゆるLEDボリュームってご存知ですか??ご存知だとしても、映像制作会社の経営者以外の方からは、たいてい「うちには関係ない設備ですね」という反応が返ってきます。巨大なLEDの壁に背景を映してカメラを回す、あの仕組みですから、無理もありません。

ただ、この捉え方のままにすると、勿体無いかもしれません。LEDボリュームの本質は「現実の物理空間に、リアルタイムで好きな視覚環境を出現させる装置」であって、用途は映画やドラマの撮影にとどまらないからです。

自動車メーカーの設計レビュー、小売の店頭体験、株主総会の演出、社員研修のシミュレーション、展示会のブース、eスポーツの中継。LEDボリュームはこれらすべてに使われ始めています。

私はフジテレビで番組制作やコンサートツアーに携わってきました。あの頃の「非日常の空間をどう作るか」という発想からすると、今のLEDボリュームは、物理セットを建てては壊していた時代の制約を大きく外してくれる道具に見えます。今回は制作手法ではなく、経営者がこの技術を自社の事業にどう取り込むかという視点で整理します。

市場データが示すのは「映像以外」の伸び

LEDボリューム(LED Volume Stage)市場は2024年時点で13.4億ドル、2033年には44.4億ドルに達する見通しで、年平均成長率は14.7%です(Growth Market Reports、2025年8月)が、注目すべきは成長の中身です。同レポートは、最大ユーザーである映画・TV・配信に次いで、企業(コーポレート)、教育、公共部門が新たな採用層として伸びていると指摘しています。

調査会社Futuresource Consultingのプリンシパルアナリスト、Ted Romanowitz氏も、ICVFX(インカメラVFX)の用途が映画・テレビを超えて、企業・行政・宗教施設・教育の各分野へ広がりつつあり、レンタル流通とフリーランス人材の拡大がこれを後押しすると分析しています(Futuresource Consulting、2026年3月)。同社の調査では、2023年末時点の世界のICVFXボリューム設置数は約200カ所で、欧州が65カ所(全体の33%)で最多、北米が2位、中国が3位。この3地域で世界の8割以上を占めています。

つまり、市場の成長は映画スタジオの新設だけが牽引しているのではなく、映像以外の業種が新規ユーザーとして入ってきていることが数字にも表れていますが、日本企業にとっては、まだまだ手薄な領域です。

業種別に見る、すでに動いている活用事例

LEDボリュームの実際の使われ方を、映像制作以外の業種に絞って挙げます。いずれも海外で先行している実例です。

自動車・製造業では、製品プロトタイプの視覚化と設計レビューに使われています。LED環境内で、異なる光や気候のもとでの製品の見え方をシミュレーションし、設計パラメータをリアルタイムで調整する用途です(EagerLED調べ)。物理試作の前段階で、デザインの意思決定を高速化できます。

ブランド・広告では、ロケ撮影の代替としての導入が進んでいます。英国のSilvertown Studiosは2025年初頭、化学大手BASFの「Sustainable Futures」キャンペーンで、アジア風の都市景観から郊外の住宅、ロサンゼルスの街路、農場までを1つのLEDステージ上で再現し、4本のミニフィルムを制作しました。ロケ撮影を置き換えることで、制作の二酸化炭素排出量も削減しています。Jaeger-LeCoultreの時計キャンペーンやBowmoreのウイスキー新商品ローンチでも同社のステージが使われています。

企業コミュニケーションでは、株主総会、製品発表会、役員ブリーフィング、チームビルディングへの活用が始まっています。複数のイベントごとに作り直せるブランド統一されたステージを、物理的な設営なしに用意できる点が、企業ユーザーに評価されています(Growth Market Reports)。リモート更新が可能で、ロケハンも複雑な物理設営も不要という運用上の利点があります。

小売・ホスピタリティでは、バーチャルショールームが登場しています。顧客が理想的な環境の中で製品を確認できる店頭体験、自動車であれば車内に乗り込んだ状態での機能体験、旅行・宿泊であれば目的地やホテルのアメニティを疑似体験させる用途です(ARwall調べ)。

eスポーツ・ライブイベントでは、VerizonとRiot Gamesが「League of Legends」の大会で、モバイルエッジコンピューティングを組み合わせたLEDステージを構築し、リアルタイムのインタラクティブな背景演出を実現した事例があります(Groove Jones)。

教育・研修では、South Florida大学がLEDボリュームを使い、実地さながらのトレーニングプログラムをシミュレートしています。危険を伴う作業や再現が難しい状況の訓練に、物理的なリスクなしで取り組める環境です。

経営判断としての論点:所有するか、借りるか、組むか

ここからが経営者にとってのTIPSです。LEDボリュームを自社事業に取り込むとき、その選択肢は大きく3つに分かれます。判断基準とあわせて整理します。

選択肢適するケース初期コスト留意点
自社で常設保有撮影・展示の頻度が高く、IP/アセットを継続的に使う高(中規模で30〜50m²、5〜10万ドル規模〜)冷却・電力・人材含むITインフラ設計が必須。稼働率が低いと固定費倒れ
レンタル/モジュール式イベント・キャンペーン等のスポット利用NantStudiosの再構成可能システム(DVS)等、可搬・モジュール型が登場。都度設営の人件費を要する
専門スタジオと提携自社にノウハウがなく、品質を外部に委ねたい低(案件ごと)国内ではクレッセント、ソニーPCL、ヒビノ等。アセットの権利帰属を契約で明確化すべき

LEDパネル自体の価格は、ピクセルピッチ(画素間隔)で大きく変わります。細かいP1.5〜P2.6で1m²あたり約2,000〜3,000ドル、中間のP2.5〜P5で600〜1,800ドル、屋外向けP6以上で300〜900ドル(EagerLED、2025年)。曲面や屋外設置は1m²あたり700〜2,500ドルの追加、直線設置なら200〜500ドルの追加です。中規模(30〜50m²)のLEDボリュームで5〜10万ドルが一つの目安になります。

リスクはここです!:常設保有を検討する経営者が最も見落とすのは、稼働率と熱・電力インフラの設計です。国内最大規模のスタジオでは、22K×5Kのリアルタイム描画で従来の空冷機材が発熱により性能低下を起こし、水冷ワークステーションの導入が必要になりました。LEDパネルの購入費だけで予算を組むと、電力・冷却・運用人材という見えないコストで採算が崩れます。稼働率が週の半分を切る見込みなら、保有よりレンタルか提携が合理的です。

「アセットの複利」をどう自社の資産にするか

LEDボリュームを単なる撮影コスト削減として捉えるか、資産形成として捉えるかで、投資の意味が変わります。

撮影や展示のために構築した3D環境は、その後ゲーム、ウェブ、AR/VR、メタバース、別のイベントへ転用できます。一度作った都市の3Dモデルや製品の3Dアセットを、複数のメディアと複数の機会で使い回すほど、投資回収効率が上がります。3Dデジタルアセット市場が2025年の338億ドルから2036年に1,374億ドルへ拡大する見通し(Fact.MR)の背景には、この相互運用性があります。

経営者として持つべき着眼点は、「うちの会社が繰り返し使う視覚環境は何か」です。毎年作り直している展示会ブース、製品ごとに撮り直しているカタログ用ビジュアル、研修のたびに用意している説明用の映像。

これらが自社の3Dアセットとして蓄積されれば、年々の制作費は逓減し、転用先が増えるほど一つのアセットの価値が上がります。単発の外注を積み重ねるモデルから、アセットを資産として積み上げるモデルへの移行が、ここで必要な経営判断です。

ソフトウェア・アセット側に寄せる

最後に、投資配分の考え方を一つ。LEDボリュームへの投資は、ハードウェア(パネル・機材)とソフトウェア・データ資産(3Dアセット・運用ノウハウ)に分かれます。

ハードウェアは関税動向と技術陳腐化のリスクを常に抱えます。パネルの単価は下がり続け、規格も変わります。一方、自社固有の3Dアセットと、それを運用できる人材・ワークフローは、環境変化で価値が失われにくく、むしろ用途が広がるほど価値が増します。

予測が外れたとき(稼働率が想定を下回る、技術が変わる)の損失を限定し、当たったとき(用途が広がる、IP展開が成功する)の上振れを最大化する配分を考えるなら、ハードウェア単独への大型投資より、アセットと人材への投資比率を高めるほうがリスク耐性で優位です。

規格面では、2026年初頭にKhronos Groupが3Dガウシアンスプラッティング(3DGS)のglTF拡張仕様「KHR_gaussian_splatting」を発表し、プラットフォーム間の互換性が整いつつあります。特定ベンダーへの依存度が下がる方向にあるため、いま慌てて特定のハードウェアに大型投資する必要性は、むしろ下がっています。

経営者が今週やるべきこと(ToDoリスト)

  1. 自社の「繰り返す視覚環境」を棚卸しする:展示会、製品ビジュアル、研修、株主向け説明など、毎年・毎回作り直しているものをリスト化する。これがアセット化の候補になる。
  2. 保有・レンタル・提携の三択を稼働率で判定する:週の稼働見込みが半分を超えないなら保有は見送り、国内スタジオ(クレッセント、ソニーPCL、ヒビノ等)との提携か、モジュール式レンタルから始める。
  3. 小規模なスポット案件で1件試す:次のキャンペーンか展示会で、LEDボリュームを使った制作を1件発注し、コスト・品質・転用可能性を自社の数字で測る。
  4. アセットの権利帰属を契約で確認する:外部スタジオに発注する場合、制作した3Dアセットの権利が自社に帰属するかを必ず契約で明確にする。複利運用の前提が崩れないようにする。
  5. ハードよりアセット・人材に予算を寄せる:投資を検討するなら、パネル購入より、自社アセットの蓄積と運用人材の確保に配分を厚くする。