韓国コスメの「化粧品版TSMC」体制に日本のものづくりが学ぶべきこと(CEOブログ)

2025年、韓国は化粧品輸出で米国を抜いて世界2位に浮上しました

韓国食品医薬品安全処(MFDS)が発表した2025年統計によると、韓国の化粧品輸出額は前年比11.8%増の114億ドル(約1兆6,600億円)に達し、世界順位は1位フランス(243億ドル)、2位韓国、3位米国(108億ドル)という並びになりました。貿易黒字は前年比13.5%増の101億ドルで、初めて100億ドルの大台に乗り、韓国全体の貿易黒字780億ドルのうち12.9%を化粧品が占めています。輸出対象国は前年比30カ国増の202カ国、米国向けは22億ドルで初めて最大の輸出先になりました。

単なる韓国ブランドの躍進というニュースではありません。ここで起きているのは、業界を問わず繰り返される「垂直統合から水平分業への転換」という、事業モデルの再編そのものです。是非、自社に置き換えながら読んでいただければと思います。

数字の裏にある座組の転換を確認します

韓国コスメの躍進を支えているのは、資生堂やロレアルのような大手が研究開発から製造、販売まで一気通貫で担う垂直統合モデルから、企画とアセット製造を資本的にも機能的にも分離する水平分業モデルへの転換です。

半導体産業でいうファブレス(設計特化企業)とファウンドリ(受託製造専業企業)の関係を化粧品分野に移植したかたちで、インディーズブランドやD2C事業者はブランディングとマーケティングに経営資源を集中し、処方研究・原料調達・品質保証・各国の薬事規制対応・量産はコスマックスや韓国コルマーといったメガODM企業が一括して引き受けます。

デューデリジェンスの視点で見ると、この分業は固定資産とCAPEXの持ち主を入れ替える取引です。ブランド側は工場という重い資産を持たずに市場参入でき、製造側は複数ブランドの受託を束ねることで設備稼働率を最大化します。開発リードタイムは従来の12〜24カ月から最短3カ月(状況により1〜6カ月)へ圧縮され、最低発注数量(MOQ)も専門ブローカー網の連携で3,000〜5,000個から対応可能になっています。

美容医療機器とスキンケアを手がける新興企業APRは、大規模な自社工場を持たずにメガODMのインフラを活用し、生産額を1,026億ウォンから2,850億ウォンへ伸ばし、韓国内の生産実績ランキングで2024年の21位から2025年に4位へ急浮上しました。

https://www.thekbs.co.kr/news/articleView.html?idxno=14719

メガODMはもはや下請けではなく、プラットフォーム企業に近づいています

コスマックスの2025年韓国内生産額は1兆6,104億ウォンでODM業界1位、韓国コルマーが1兆3,012億ウォンで2位、コスメカコリアが3,531億ウォンで3位です。コスマックスの2025年連結売上高は2兆3,988億ウォン(前年比10.7%増)、営業利益は1,958億ウォン(同11.6%増)でした。生産拠点は韓国、中国、米国、インドネシア、タイに広がり、2026年にはイタリアのODM企業ケミノバ(Keminova)の株式51%を取得し、2月の株式売買契約締結を経て4月に取得を完了、欧州初の生産拠点を確保しています。

https://www.etoday.co.kr/news/view/2558333

韓国コルマーも規模拡大の速度が目立ちます。同社は2026年4月、韓国公正取引委員会から資産総額5兆ウォン超の企業を対象とする「公示対象企業集団」(いわゆる大企業集団)に新規指定されました。化粧品ODM専業企業がこの区分に入るのは初めてです。

関税対応でも先手を打っており、2025年7月に米国ペンシルベニア州の第2工場を稼働させ、既存の第1工場と合わせて米国内で年間約3億個、カナダ拠点を含めた北米全体では年間約4億7,000万個の生産体制を整えました。M&Aやのれん計上を伴わない有機的な設備投資だけで、北米最大のODM生産規模に到達しています。

https://www.hankyung.com/article/2025071753471

自社の事業を三つのシナリオで点検してください

Best:自社が垂直統合の強みを保ったまま、開発サイクルの一部だけを外部プラットフォームに委託し、両利きの経営を実現できるケースです。

生堂は構造改革により2026年上期(1〜6月)のコア営業利益を444億3,200万円(前年同期比90.1%増、前年差プラス211億円)まで伸ばしましたが、これは既存の基幹ブランドへの投資集中とコストマネジメントの成果であり、外部の開発プラットフォームを取り込んだ結果ではありません。自社ブランドの価格規律とコスト配分の見直しだけで到達できる利益改善には上限があることを、この数字は同時に示しています。

Worst:自社が担ってきた企画機能まで、外部のメガODM的なプレーヤーに奪われるケースです。

共通のプラットフォームを使えば誰でも高品質な製品を作れる環境は、差別化の重心をパッケージデザインやインフルエンサーマーケティングへ偏らせ、参入障壁の低下と相まって類似商品が乱立します。ブランド側が激しい新陳代謝にさらされる一方で、事業データと利益はプラットフォーム側に一元的に蓄積されるという非対称な取り分の問題も生じます。自社が「ブランド側」に留まり続ける限り、この非対称性から逃れることはできません。

Most Likely:業界内で一部の企業がプラットフォーム化を先行させ、残りの企業が既存の受託取引先としてそこに組み込まれていくケースです。

日本の受託製造企業(TOAや日本色材工業研究所など)は高度な製剤技術と品質管理基準を持ちながら、既存大手ブランドからの受託や仕様通りの製造が中心で、韓国のメガODMのように処方ライブラリとAIを武器に新興ブランドを育てて世界へ送り出す機能は限定的です。この立ち位置のまま、韓国発のプラットフォームに実質的に組み込まれていく可能性が最も高いシナリオです。

リスクの指摘:自社が「捕捉できていない価値」がどこにあるかを確認してください

水平分業モデルの最大の見落としは、リードタイム短縮やコスト削減といった目に見える効率化の裏で、事業データと顧客インサイトという無形資産の帰属先が変わってしまう点です。ブランド側が販売とマーケティングに集中するほど、製品開発に関わる知見はプラットフォーム側に蓄積されていきます。契約上の製造委託条件だけでなく、開発データと処方知財の帰属条件まで確認しておくべきです。

もう一つの見落としは、政策目標の定義そのものが実態を隠す場合があることです。

経済産業省は2025年12月に「化粧品産業競争力強化検討会」を立ち上げ、2033年までに輸出額と現地製造額を合わせた海外展開額を、現状の6,700億円から2兆円まで引き上げる目標を掲げました。しかしこの目標には現地生産分も合算されるため、国内拠点から純粋に海外へ売る越境輸出そのものの実態は見えにくくなります。

国内拠点で製造し海外へ販売する純粋な越境輸出額は、2021年の約7,972億円をピークに減少を続け、2024年には約5,264億円まで落ち込みました。2025年速報値では約5,797億円へ回復の兆しも見えていますが、目標の合算方式次第で、国内サプライチェーンにどれだけ仕事が残るかという実質的な論点が見えなくなるリスクがあります。自社の海外展開戦略でも、KPIの定義が現地生産を含むのか含まないのかを、投資判断の前に必ず確認してください。

https://www.crex-data.com/industry/consumer/cosmetics/export-import

明日から検討できる論点

自社の事業が垂直統合型であるほど、このシナリオは他人事ではありません。

まず、自社の製品開発サイクルのうち、どこまでが本当に自社の競争優位で、どこからが外部委託しても失うものが小さい工程なのかを棚卸ししてください。

次に、開発を外部化する場合は、処方や顧客データの帰属条件を契約に明記し、プラットフォーム側に無形資産が一方的に蓄積される仕組みを避けてください。

最後に、海外展開の数値目標を立てる際は、現地生産と純粋輸出を分けて管理し、どちらの成長が自社の交渉力を高めるのかを区別して評価してください。

垂直統合を守るか、水平分業を取り込むか。どちらを選ぶにせよ、選ばずに現状維持を続けることが最もリスクの高い選択肢です。