娯楽性と資産性のWエンジン:TCG市場から取り出せる、業種を問わない3つの切り口(CEOブログ)
トランプより高く売れる紙が、市場をいちばん引っ張っている
トレーディングカードゲーム(TCG)を子供の遊びだと思っている経営者の貴方!いま日本の玩具市場で起きている事実を理解できていらっしゃいませんよ。日本玩具協会の集計では、2024年度の国内玩具市場は1兆992億円で過去最高を更新しました。その最大の牽引役が「カードゲーム・トレーディングカード」部門で、規模は約3,025億円、市場全体の27.5%を占めます。2020年度の約1,100億円からおよそ3倍に伸びた計算です。
紙に印刷された絵柄が、ぬいぐるみやキャラクター玩具を抜いて玩具市場の最大カテゴリーになった。この一点だけでも、TCGを娯楽の一ジャンルとして眺めるのはもったいない。私が今日取り出したいのは、TCGという題材から抜き出せる、業種を問わず転用できる3つの切り口です。
デジタルは物理を食わない。最初の接点になる
1つ目は、無料のデジタル体験を入口に置いて、収益性の高い本体へ送り込む流れです。
株式会社ポケモンのアプリ『Pokémon TCG Pocket(ポケポケ)』は、リリースから1年で世界累計9,000万ダウンロード、収益12億米ドル(約1,895億円)を記録しました。Sensor Towerによれば、日本は収益シェア37%で世界トップ市場、ユーザーの35〜44歳層が約25%と他国平均の2倍、週あたり平均プレイ時間は138分でこれも世界一です。いい大人が毎週2時間以上をカードアプリに費やし、世界でいちばんお金を落としている。
ここで見落としやすいのは、アプリが紙のカードの売上を奪っていない点です。むしろルールの学習、対戦相手の確保、購入場所の認知という、紙を始めるときの面倒を取り払い、実物への興味とイベント参加につなげています。
この型は他業種でも繰り返し使えます。SaaSの無料プラン、食品の試食、コスメのサンプル、いずれも入口の体験を軽く広く配り、利益率の高い本命へ送る同じ発想です。自社の事業で「いちばん広く、いちばん軽く配れる体験は何か」を、一度棚卸しする価値があります。出来得るならば、ポケポケみたいに有料で配りたいものですよね。
人は、中身が見えない箱に喜んでお金を払う
2つ目は、人間の本能に沿った仕掛けです。
TCGの拡張パックは、開けるまで中身が分かりません。この「分からなさ」に対し、当たるかもしれないという期待で人はお金を出します。同じ性質を持つカプセルトイ市場を見ると、2025年度の規模は約1,960億円、前年度の1,410億円から39.0%増です。メインの買い手は20〜30代の女性で、単価は400円と500円が全体の約48%を占めるまで上がりました。100円玩具だったガチャガチャが、大人の女性が日常的に数百円を投じる娯楽に変わっています。
ノスタルジー、収集して並べたい欲、引き当てたときの高揚。この3つは、サブスクの継続課金やポイント制度、限定販売など、あらゆる業種の仕掛けのもとになっています。重要なのは、ランダム性や限定性を「煽り」で安く使い捨てるのではなく、収集する満足や思い入れと結びつけて長く回すことです。

遊べて、しかも値上がりする。だから強い
3つ目が、娯楽性と資産性のWエンジンです。
TCGのカードは、対戦やコレクションという使う価値と、希少なら値上がりするという持つ価値の両方を持ちます。PSAなどの第三者鑑定機関がカードの状態を10段階で評価し、専用ケース(スラブ)に封入することで、紙のカードは取引の基準を持った金融商品に近い扱いになりました。結果として、TCGはロレックスの時計、ワイン、現代アートと並ぶ代替資産として語られています。
このWエンジンが効くと、顧客生涯価値(LTV)が伸びます。遊ぶために買う人、集めるために買う人、値上がりを見込んで買う人が、同じ商品に別々の理由でお金を出すからです。ホロライブのカードのように、推しを応援する証として買われる例も同じ流れです。自社のプロダクトやIPに、使う価値だけでなく持つ価値を足せないか。シリアルナンバー、限定エディション、所有の証明、このあたりが検討の入口になります。

ただし、資産性には反作用もある
ここからはネガティブ面のお話です。Wエンジンの資産側だけが過熱すると、娯楽という本体まで傷みます。
2026年4月、秋葉原のトレカ買取販売店「The TCG Shop AKIHABARA」が、プレオープンから約2か月半で事業を停止しました。運営の株式会社The TCGは5月1日に東京地裁の破産手続き開始決定を受け、債権者は約200名、負債は報道で約2億円規模(一部の集計では約4億円)とされています。原因は、買取価格を下回る価格での販売を強いられ、買取代金の原資を確保するために在庫を安値で早期処分する資金繰りに陥ったことです。高額カードビジネスは資本集約的で、相場の変動が大きい。仕入れた在庫が一夜で値下がりすれば、現金はすぐに尽きます。
加えて、軽くて現金化が容易で匿名性が高いという性質は、資金洗浄や脱税にも使われます。資産性は集客と単価を押し上げる一方で、投機マネーと反社会的な利用を呼び込みます。Wエンジンを積むなら、資産側が暴走しないための歯止めをあらかじめ持っておく。具体的には、取引先の財務審査、プレイ用と収集用の商品の切り分け、二次流通の相場をならす供給計画です。
自社の事業に、どこから移植するか
最後に、ご参考までに、社内を動かすための割り当て案を記載しておきます。
- 誰が:事業開発と各IP担当
- 何を:3つの切り口の自社版を1枚に書き出す。①最も広く配れる無料・低価格の入口体験、②ランダム性や限定性を収集満足と結びつける仕掛け、③使う価値に持つ価値を足す付加価値(限定・シリアル・所有証明)
- どうする:来月の事業会議までにドラフトを持ち寄り、Wエンジン化できる候補を2件に絞る。同時に、資産側の歯止め(取引先審査・商品分離・供給計画)を1枚で定義する
TCGは、娯楽の熱量と資産の値動きが同じ商品の中で同居する、いまもっとも観察しがいのある市場です。
傍観するより、自社のどの要素にこの3つを移植できるかを書き出すほうが早い。私はそう考えています。


