オンラインオリパのデューデリジェンス(CEOブログ)

看板の裏側にあった数字

2025年末から関東近郊で見かけた「キング大山」という黄色い看板は、社名もURLも出さないティザー広告でした。看板の主である株式会社日本トレカセンターの決算を見ると、2025年11月期の当期純利益は23億5,855万円、総資産は69億3,669万円です。2023年11月期の純利益2億2,353万円から2年で約10.6倍という伸びで、登記情報を基にした外部推計の企業評価額は約132億円とされています。

今回は、いわゆる「オンラインオリパ」(トレーディングカードをランダムに封入して販売するオンラインくじ形式の事業)の考察ですが、業種を問わず参考になる論点をいくつも含んでいます。

還元率という指標だけで判断してはいけない理由

この種の事業を評価する際、事業者が強調する「還元率」の高さだけを見るのは危険です。

実務で分けて見るべきは、購入されたポイントの総額という現金収入と、抽選実行時などの収益認識基準に基づく会計上の売上の違い。表示上のカード市場価格と実際の仕入原価の差益。決済手数料や配送、鑑定、不正対応にかかる変動費。広告費や初回無料ポイントを含む顧客獲得費と、利用者ごとのLTV。そして、あとで触れるポイント債務です。高い還元率を謳っていても、これらを混同したまま評価すると実態を見誤ります。

のれんの根拠が薄いときの判断軸

日本トレカセンターの決算公告には貸借対照表の要旨は載っていますが、売上高、広告費、カード仕入原価、ポイント債務の内訳、キャッシュフローは開示されていません。

約132億円という評価額は、登記から復元した推計であり、有価証券報告書のような開示に基づくものではありません。純利益が2年で10.6倍という成長率だけを根拠に高値で評価すると、成長が減速した局面で評価が急落する非対称性を抱え込みます。開示水準が薄い急成長企業を査定する際は、成長率そのものより、成長率を支えている中身の開示範囲を先に確認すべきです。

ポイント債務は簿外に近い負債として扱う

オリパ事業者が発行する有償ポイントは資金決済法上の前払式支払手段です。基準日(毎年3月末・9月末)の未使用残高が1,000万円を超えると財務局への届出義務が生じ、未使用残高の2分の1以上を発行保証金として供託するか、保全契約を結ぶ必要があります。

この保全水準は法律上の最低ラインであり、会計上の負債計上だけを見ていると、実際の払い戻し義務の規模を過小評価します。デューデリジェンスでは、基準日ごとの未使用残高の推移と保全の実施状況を必ず確認すべきです。

キーパーソンへの依存というリスク

「キング大山」の看板は、代表取締役個人の顔写真だけで指名検索を誘発する狙いだと考えられます。集客効果は見込めますが、代表個人のレピュテーションに事業の認知が直結する状態は、事業承継やM&A実務における属人化リスクの典型でもあります。当該人物の離脱、スキャンダル、体調不良などが起きた場合に、ブランド価値と顧客の想起経路が同時に失われる可能性を織り込んでおく必要があります。

海外の規制動向も無視できない

2026年3月、欧州の年齢レーティング機関PEGIはルートボックス(ガチャやカードパックなど、支払って何が出るか分からない仕組み)を含む新規タイトルに原則PEGI16を課す基準を発表し、2026年6月から新規申請分に適用しています。さらに、欧州議会IMCO委員会は2025年10月、デジタル公正法にルートボックス規制を盛り込むよう決議し、欧州委員会は2026年内に法案を示す見通しです。

アメリカでは、トレーディングカードのライブ配信販売プラットフォームWhatnotに対して、カリフォルニア州刑法319条の違法宝くじ規定とRICO法違反を根拠とする仲裁が15件、30人超の依頼者から申し立てられています。射幸性のある購入体験を組み立てている事業者であれば、業種がゲームでもトレカでもなくても、これらの動きは参考にすべき先行事例です。

プラットフォームの規約変更が先に来る

eBayは懸賞・宝くじ形式の出品を禁止し、カードのブレイクやリパックを事前承認済み販売者に限定しました。TikTok Shopも偶然性を利用した販売を原則禁止しています。どちらも法律の確定を待たず、決済停止やアプリストア審査落ちという経営上の実害を避けるために自社の規約を先に厳しくしています。射幸性を伴う顧客体験を持つ事業者は、法規制よりもプラットフォーム規約の変更速度のほうを警戒すべき局面に入っています。

Best・Worst・Most Likelyで見る先行き

Bestシナリオは、抽選の検証可能性、真贋鑑定、購入上限、第三者監査を先に整えた上位事業者が、代替資産の正規チャネルとして機関投資家の資金を呼び込む展開です。Worstシナリオは、国内で賭博罪の摘発や資金決済法違反の行政処分が表面化し、決済代行会社や広告媒体が離脱して資金繰りが急速に悪化する展開です。

Most Likelyは、景品表示法の執行強化とプラットフォームの自主規制強化が同時に進み、体力のない中小事業者が退出し、資本力のある上位数社への集約が進む展開だと見ています。

リスクの指摘

開示水準が薄いまま成長率だけを根拠に評価額が形成されている場合、成長が減速した瞬間に評価が急落する非対称性を抱えている点は見落とされがちです。

もう一つ、ポイント債務の保全が法律上の最低ラインに留まっている事業者は、解約の集中や規制強化が重なった際に流動性危機に陥りやすい点も、決算書だけを見ていては気づけません。

自社に置き換えて明日から確認すべきこと

ランダム性や射幸性を含む顧客体験(福袋、ガチャ型キャンペーン、覆面商品、抽選販売)を持つ会社であれば、次の4点を点検してください。

表示の裏付け資料が景品表示法の直罰規定に耐える形で整備されているか。

前払式のポイントや商品券の保全状況が資金決済法の基準を満たしているか。

キーパーソンへの依存度が広告戦略や顧客の想起経路にどこまで組み込まれているか。

そして、取引しているプラットフォームや決済代行会社の規約変更に、海外の動向を先行指標として備えているか。

この4点は、業種を問わず、この週末にでも確認できる内容です。