生成AIで誰でも作れる時代、ブランドの価値はどこに残るのか?(CEOブログ)
「作る力」の値段が下がり始めています
生成AIによって、キャラクターを作るコストも急速に下がっています。イラスト、動画、音声、3D素材まで、数年前なら複数の専門職と相応の予算が必要だったものを、小さなチームでも大量に試せるようになりました。ここでいうキャラクターとは、アニメやゲームの登場人物に限らず、企業のマスコットや商品の顔として使う絵柄と人格の組み合わせという広義のものを指します。
作れる人が増え、世に出るキャラクターが10倍、100倍になれば、「作れること」自体の希少性は下がります。これは広告のクリエイティブや商品パッケージ、営業資料でも同じことが起きています。では、その先で企業の価値として残るのは何か。私は、顧客が名前を覚え、また会いたくなり、他人と語り、何年も付き合う対象を見つけ出して育てる力だと考えています。競争の軸は「どれだけ作れるか」から「どれを見つけ、どう育てるか」へ移りつつあります。
再生数の多さと愛着の強さは別物です
生成AI時代の新規キャラクター開発で、多くの人が思いつく勝ち筋は同じです。大量に作り、TikTokやYouTubeに出し、反応の良いものへ投資を寄せる。スタートアップや投資家の発想とも相性がよく、方向としては合理的です。ただ、これを単純な大量ABテスト(複数案を同時に出して数字で優劣を決める手法)と考えると危うさがあります。
Matthew Salganik、Peter Dodds、Duncan Wattsが2006年に『Science』で発表した実験では、14,341人に未知の楽曲を評価してもらい、他人の選択が見える環境と見えない環境を比べました。他人の選択が見える環境では、最初に少し注目された曲へ人気が集中し、見えない環境では同程度の評価だった曲の間にも大きな差が生まれました。推薦アルゴリズムが露出量を左右する今のSNSでは、この偏りはさらに強く出ます。1000万回再生されたからといって、1000万回分の資産価値があるとは言えません。
そこで見るべきは、量の指標ではなく、顧客の頭の中に存在感が育ち始めたことを示す行動です。業種を問わず置き換えられるので、対応を表にしておきます。
| キャラクターで見る行動 | 一般企業での置き換え例 | 何を示すか |
|---|---|---|
| 名前で検索される | 社名・商品名での指名検索 | 記憶に残っている |
| 名前で言及される | 口コミでの固有名詞の登場 | 他人に語る価値がある |
| 二次創作される | 顧客による投稿・活用事例の発信 | 自分ごととして扱われている |
| プロフィール画像に使われる | 顧客が自社ロゴ入り品を身につける | 自分を表す記号になっている |
| 過去作まで遡って見られる | 過去の商品・記事への回遊、リピート購入 | 関係が続いている |
再生数10万回でも、ファン同士が「このキャラならこうするはず」と語り合い始めていれば、画面に映っていない時間まで想像されている状態です。広告の表示回数や初月売上だけで投資判断をしている会社は、同じ見落としをしている可能性があります。
POP MARTは好決算でも株価を下げました
「好き」には種類があります。一緒にいたい、集めたい、物語の続きを見たい、身につけたい、人に見せたい。どの感情で選ばれているかによって、伸ばし方も測り方も変わります。この点で外せないのが、中国の玩具企業POP MARTです。
2025年12月期の売上高は371.2億元で前年比184.7%増。売上の90%をアーティスト発のキャラクターが占め、中でもLABUBUを含むTHE MONSTERSシリーズは141.6億元、全社売上の38.1%に達しました。前年は23.3%です。大きな物語を先に作るのではなく、見て分かる、持ちたくなる、バッグにつけて人に見せたくなるという所有の欲求から広がった例で、物語起点だけが正解ではないことを示しています。
2025年度 年次決算発表|POP MART International Group・2026年3月
一方で、ここは自分の主張への反証として書いておきます。決算発表当日、香港市場の株価は22.5%下落しました。売上も利益も大きく伸びたのに、市場が見たのは単一シリーズへの依存度の高まりでした。一つのキャラクターに価値が積み上がるほど、会社全体の運命がそこに連動する。育てる力が強い会社ほど、集中のリスクも同時に抱えます。投資家の目線では、「育てた一本」と「次の一本を見つける仕組み」が両方そろって初めて評価が安定すると見ています。
顧客が自分を語る道具になると長く残ります
関係が深まると、顧客の意識は「私はこれが好き」から「これが好きな私はこういう人間だ」へ、さらに「これが好きな私たち」へ移っていきます。私はこの状態を便宜的に「社会的な識別子」と呼んでいます。学術用語ではありませんが、背景には社会的アイデンティティ理論やブランドコミュニティ研究の蓄積があります。
Albert MunizとThomas O'Guinnが2001年に発表したブランドコミュニティ研究では、ブランドを中心とした集まりに、仲間意識、共通の儀礼や伝統、コミュニティへの責任感が生まれることが示されています。バッグにつける、イベントへ行く、ファン同士にしか通じない言葉を使う。これらは消費であると同時に、「私はこれが好きな人です」という周囲への発信です。そのサインを見た別の人が気づき、キャラクターは企業と顧客だけでなく、顧客と顧客をつなぐ媒体になります。
Brand Community|Journal of Consumer Research・2001年3月
こうなると、意味を決めるのは提供側だけではありません。ファンアートやミーム、イベントでの出来事が少しずつ上乗せされ、共有された記憶まで含めてそのキャラクターになっていきます。公式が設定を全部説明し切るより、語り合う余地を残す判断が効く場面もあります。
最後まで複製できないのは時間です
画像生成モデルも動画生成モデルも、乗り換えればより高性能なものが使えます。しかし「あの配信でこんな失敗をした」「このミームは3年前のあのイベントから始まった」という履歴は交換できません。似たキャラクターは作れても、ファンと過ごした5年間そのものは生成できないからです。
M&Aの実務に置き換えると分かりやすいと思います。キャラクター事業を持つ会社を買うとき、買収価格のうち純資産を超える部分(のれん)の中身は、デザインデータや商標登録ではなく、この積み上がった履歴と顧客同士の関係です。生成コストが下がるほど、時間をかけなければ積み上がらない部分の比重は相対的に上がります。デューデリジェンス(買収前の調査)でも、この部分をどう見積もるかが評価の差になっていくはずです。
ライセンスの対象が振る舞いまで広がりました
AIによって、キャラクターは作品の中で描かれる存在から、顧客と会話し、やり取りを覚え、相手に応じて反応を変える存在へ広がり始めています。
米玩具大手Hasbroは2026年6月3日、AIスタジオ「Sixth Wall」を立ち上げ、Behavioral Licensingという新しいライセンス区分を打ち出しました。見た目や名称だけでなく、キャラクターがどう考え、どう話し、どう応じるかを許諾の対象にするもので、人格や公式設定、声、安全上のガードレールを保持する独自システムCharacterOSで運用します。ローンチ時点で12キャラクターが対象となり、想定用途にはAIのブランドアンバサダーや顧客対応エージェントも含まれています。
2026年9月18日には、ウォルト・ディズニー・カンパニーが、Character.AIのCEOだったKarandeep Anand氏を新設の最高技術責任者(CTO)に迎えると発表しました。10月2日付の就任で、Character.AIの技術チームの一部も合流する予定です。
これは「振る舞い」という新しい知的財産権が生まれたという話ではありません。著作権、商標、声優との契約、人格設定、安全基準を束ねて、「このキャラクターとして振る舞わせる」利用をどう管理するかという話です。自社の顧客窓口にAIを置き、ブランドの人格で話させようとしている会社にとっても、同じ管理課題がすでに手元にあります。
チャネルは商品の性格に合わせて選びます
ただし、対話できるほど優れたキャラクターになるわけではありません。話さないから魅力的なもの、何を考えているか分からないから想像したくなるもの、持って眺めること自体が楽しいものもあります。POP MARTの主力商品に会話機能は付いていません。
サンリオは2026年4月21日、自社パブリッシングのゲームブランド「Sanrio Games」を始動し、2029年3月までに10タイトル程度のリリースを予定していると発表しました。ライセンス許諾によるゲーム展開は続けつつ、自社のキャラクターと世界の顧客を直接つなぐ新しい接点として位置づけています。業界紙の報道では、開発・販促に100億円規模を投じる計画とされています。
初の自社ゲームブランド「Sanrio Games」始動|株式会社サンリオ・2026年4月
AI対話、ゲーム、ショート動画、メタバース。新しいチャネルが出るたびに全商品を並べたくなりますが、チャネルに商品を合わせるより、商品に合うチャネルを選ぶ順番が正しいと考えています。これはキャラクターに限らず、新チャネルへの予算配分を決めるすべての経営判断に当てはまります。
投資は探索より蓄積の段階で差が出ます
生成AIで100体、1000体のキャラクターを作れること自体は、差別化になりません。競合も同じことができるからです。差が出るのはその後で、私は「探索・選別・育成・蓄積」の4段階に分けて考えています。
| 段階 | やること | 生成AIの影響 |
|---|---|---|
| 探索 | 候補を大量に作り、市場に出す | コストが大きく下がる |
| 選別 | 小さな兆候を拾い、残すものとやめるものを決める | 判断材料は増えるが、判断は人に残る |
| 育成 | 性格、関係、商品、物語を足していく | 制作は速くなるが、方向づけは人に残る |
| 蓄積 | 顧客と過ごした時間、顧客同士の関係を積み上げる | 生成では代替できない |
一つの成功が次の顧客層を呼び、昔の出来事が共通の話題になり、価値が複利で積み上がる。生成AIが変えるのはヒットを生む確率ではなく、この複利が効く候補を以前よりはるかに多く試せる点です。そのうえでPOP MARTの例が示すとおり、複利が効いた一本に頼り切る会社は市場から割り引かれます。
経営者として見るべきは、自社のどこで顧客が意味を付け始めているか、そしてその兆候を再生数や売上以外の数字で捉えられているか、です。この兆候をどう観測し、比較し、追加投資の判断につなげるかは、いま周囲の方々と具体的な手順を検証しているところです。形になった段階で、改めてこちらでご紹介します。

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