戦略17分野指定企業が直面する非対称な賭け、スタートアップ・中小企業の意思決定基準(CEOブログ)
■ 「選ばれた」と「選ばれ続ける」は別物
戦略17分野への該当は、経営にとって意思決定の起点にすぎません。官民投資の規模は370兆円規模と報じられていますが、2026年6月時点ではまだ政府内で調整中の試算であり、7月にまとまる方針への正式な反映を待つ段階です。私はこの数字が独り歩きすることを、むしろ警戒しています。
自社の事業領域がリストに入った瞬間、安心してしまう経営者もいそうですが、ロードマップ上の項目に名前が挙がることと、実際の公募や調達で選定されることの間には、応募と審査という別の工程が挟まります。ここを混同すると、投資判断の優先順位を根本から誤ります。
私自身、ディープテック領域の資金調達などにも関わってきた経験から言えば、政策の方向性に合致しているという説明は、投資家や取引先への説明コストを下げる効果はあります。ですが、それだけで採択や受注が決まったケースは多くありません。該当はスタートラインであってゴールではない。この前提を、経営会議の最初に共有しておく必要があります。
本稿では、今回の戦略分野の主な対象である「製造業・技術系企業」経営者向けを念頭にお届けします。
■ 非対称な賭けとして組み立てる
ここで私が経営判断の軸に置いているのが、ダウンサイドを限定しながら、読み筋が当たったときのアップサイドを大きく取りにいくという考え方です。戦略17分野への対応は、この非対称性を意図的に作れる領域です。
自治体の小口助成は、ダウンサイドが限定された投資です。大田区の開発ステップアップ助成(最大500万円)や東京都中小企業振興公社の製品開発支援(開発・改良フェーズで最大1,500万円、普及促進まで含め最大1,850万円)は、仮に不採択でも会社の存続を揺るがしません。
ここで実績を作り、内閣府のK Program(個別研究型で数億円、プロジェクト型では数十億円規模に達することもある)のような、アップサイドの大きい資金へ段階的に進む。プロジェクト型は大学や大企業との連携が前提になりやすい一方、個別研究型には単独応募の枠もあるため、自社の規模に応じて使い分けます。これが、中小・中堅企業にとって最も取りやすいリスクの形です。
逆に避けたいのが、セキュリティ・クリアランス対応のような重い投資を、具体的な政府調達や大企業との共同研究の見込みが立つ前に全面展開してしまうことです。これをやると、ダウンサイドが先に確定し、アップサイドが不確かなまま負担だけが残ります。投資の順番を、見込みの確度に合わせて並べ替える。これが、この分野での意思決定基準の基本です。
■ 私が経営者に必ず確認する、見落としやすい論点
ディープテックの資金調達に立ち会うたびに、技術そのものより機関投資家を不安にさせるのが、調達網の依存関係でした。経済安全保障推進法は、半導体、蓄電池、永久磁石などを「特定重要物資」として指定し、特定国への依存からの脱却を求めています。自社が直接の対象でなくても、取引先のさらに先の調達網に依存があれば、大企業との取引条件として、開示や代替調達先の提示を求められる場面が出てきます。
そこで私が必ず確認するのが、BOM(部品表)を第3階層、第4階層まで遡って依存経路を可視化しているか、という点です。これは対象指定を受けた直後に着手すべき作業です。後回しにすると、大企業のサプライヤー選定の段階で初めて発覚し、取引そのものを失います。技術力で勝っていても、調達網の一点で落ちる。私もこのケースは何度か耳にしたことがあります。
■ 税制活用は、投資回収の前提から逆算する
量産投資の判断ができる規模の企業には、戦略分野国内生産促進税制という選択肢があります。対象は半導体(マイコン・アナログ)、EV等(蓄電池)、グリーンスチール、グリーンケミカル、SAFの5分野に限定。事業適応計画の認定(2027年3月末までに申請)を受けると、最大10年間、生産・販売量に応じた税額控除を受けられます。控除上限は法人税額の40%(半導体は20%)、8年目以降は段階的に縮小します。

注意したいのは、この5分野に当たらない事業では、税制そのものが判断材料に入らないという点です。まず自社の生産品が対象に含まれるかを確認し、その上で投資回収期間を税制込みで再計算する。
控除を前提にした投資にするのか、控除がなくても成立する投資にとどめるのか。この切り分けを最初に済ませておかないと、控除をあてにした計画が崩れたとき、回収の見通しごと崩れます。対象外の企業は、素直にK Programや自治体助成を主軸にした資金計画に切り替えるべきです。
■ 組織を、個人の頑張りに依存させない
これらの対応を特定の担当者の奮闘に任せると、長くは続きません。経営会議の直下に経済安全保障の対応を統括する責任者を置き、人事・法務・調達・開発の情報を一か所に集める。この体制は、規模の小さい企業でも最低限必要になります。
専門人材を新たに採用する余力がないなら、厚生労働省の人材開発支援助成金等を使い、既存社員のリスキリングに投資するほうが、コストと速度の両面で現実的です。私自身、人材を外から獲るより、中にいる人間を育てたほうが速かった場面を何度も経験しています。
戦略17分野が突きつけているのは、技術力だけでは測れない競争軸です。国家の投資方向と、自社の意思決定の順番を合わせられるか、まさにこの一点に尽きます。
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