バーチャルIP事業における残された戦略プランとは?(CEOブログ)
noteにて、「大手2社の向こうを張って、VTuber市場に打って出たくなったら、どう戦いますか?」と題した記事を公開いたしました。
https://note.com/embed/notes/n38f9c31327fd
表層的な市場規模の拡大予測に惑わされることなく、大手2社(カバー、ANYCOLOR)の強さとその裏にある構造的限界を見極め、AI技術、グローバル音楽市場、そしてB2B領域という新たなブルーオーシャンへ向かうための戦略論をまとめています。
本稿では、株式会社セグレト・パートナーズのCEOとして、またメディア・エンターテインメント領域における事業開発と数十億単位の投資判断の最前線に立ってきた実務家として、経営層の皆様に向けたより一段深い「実装論」を展開します。
私がかつて、嫌というほど痛感させられ続けた、分かりやすくも冷酷な現実は、「圧倒的な資本力と先行者利益を持つ競合に対し、同質のプロダクトで挑む事業計画は、例外なく頓挫する」ということです。 現在のVTuber市場における大手2社は、すでにかつてのプラットフォーマーに匹敵する強固なエコシステムを構築しています。彼らのビジネスの本質はタレントマネジメントではなく、ネットワーク効果を背景とした巨大な商社的機能です。
この市場で生き残るには、彼らが「既存のファンベースを維持するために、あえて手を出せない(あるいは最適化しきれない)かもしれない領域」へと、事業の定義を大胆にずらすしかありません。

当社のコンサルティングフレームワークである「D-S-A-G(Domain・Strategy・Advantage・Governance)」分析を用い、次世代バーチャル事業の構造を解剖します。
1. Domain(戦う領域の再定義):純粋音楽IP、または機能提供型B2Bへの投資
大手が支配する「日本のオタクカルチャー(アニメルック×バラエティ配信)」からは距離を置くことを強く推奨します。我々が投資すべきは、言語の壁が極めて低い「グローバル音楽市場」、もしくは実利ベースで動く「B2B領域」です。 音楽領域では、韓国「PLAVE」の成功(初動ミリオン達成、Melonチャート独占)が示す通り、K-POPと同等のパフォーマンス至上主義で世界と戦う覚悟が必要です。KGIはYouTubeの同接数ではなく、Spotify等の月間リスナー数や原盤・出版権収益に置きます。
一方、エンタメ特有の不確実性を完全に排除したいのであれば、eラーニングや企業内ナビゲーターといったB2B領域(機能提供型)に振り切るべきです。法人の課題解決に直結するため、少なくとも今しばらくは、極めて手堅い収益基盤の構築が可能です。
2. Strategy(戦略):初音ミク的オープンエコシステムと、すとぷり的熱狂の統合
海外のエンタメ市場を狙う場合、自社で多言語対応のコンテンツを量産する「労働集約型」のアプローチはコスト面で必ず破綻します。取るべき戦略は、IPをオープン化し、世界中のクリエイターを巻き込む「プラットフォーム化」です。
日本のエンタメが持つ最大の強みは、初音ミクに代表される「UGC(二次創作)のエコシステム」です。これに国内トップエンタメユニット「すとぷり」が実践するような、ファンとIPが一体となって物語を進めるプロジェクト型の熱狂を組み合わせます。自社の楽曲データや3DモデルをAPIのように解放し、東南アジアや南米の「翻訳切り抜き師」や現地のトラックメーカーが自由にローカライズできる環境を整える。
公式はそれを束ねて再発信するハブ機能に徹することが、最もスマートかつ高ROIなグローバルマーケティングです。
3. Advantage(優位性):AI実装による限界費用の低下と稼働の最大化
競争優位性の源泉は、AIの実装による「スケーラビリティの確保」と「属人性リスクの排除」に尽きます。 大手の最大の弱点は、「中の人」の物理的な稼働時間に売上が制限されること、そして「中の人」の離脱が数十億円規模のIPの停止に直結することです。
我々はこの課題をテクノロジーで根本から解決します。 AIによるボイスクローン技術と感情を伴うLLM(大規模言語モデル)の進化は、すでにTwitch1位の「Neuro-sama」が証明している通り実用レベルです。人間の演者のパフォーマンスをマスターデータとし、それを学習したAIモデルが、演者が休息している間も別言語で世界中のファンとコミュニケーションを行う体制を構築する。これにより、IPは「24時間365日、世界中で稼働し続けるデジタルアセット」へと昇華します。
4. Governance(ガバナンス):IPと演者の権利の完全分離と新しい分配モデル
この高度なAI戦略やB2B展開を成立させる大前提が、緻密な法務・ガバナンス設計です。 「演者の声と人格を学習したAI」を企業が運用するためには、旧来のタレントマネジメント契約は全く通用しません。2025年の米国最大手VShojoの崩壊は、ここの設計を誤り、IPコントロールを失った結果です。
契約段階で、演者の「実演」に対する対価と、演者のデータから生成された「AI・IP」の運用益に対する対価(レベニューシェア)を完全に分離・定義する必要があります。仮に演者が第一線を退いた場合でも、企業がそのAIモデルを継続して運用できる権利を法的に担保し、その代わりとして、演者には中長期的なロイヤリティ(退職年金的な配当)を約束する。演者と企業の双方が納得し、事業の永続性を担保する新しい知財法務モデルの構築こそが、経営層が果たすべき最も重要な責務です。
終わりに
これからのバーチャルIP事業は、タレントを管理する「芸能事務所」の延長ではありません。テクノロジー、音楽、法務、そしてB2B機能提供を高度に統合した「次世代のインフラ企業」の創造です。
表面的なトレンドをなぞるだけのビジネスプランは、もはやシビアな市場の評価に耐えられません。株式会社セグレト・パートナーズでは、エンターテインメント投資の最前線で培った客観性と、最新のテクノロジー・法務知見を掛け合わせ、真に勝ち残るための事業構造の設計を支援しております。既存の枠組みを超え、世界市場や新たなB2B事業領域を本気で獲得しに行く経営陣の皆様からのご相談を、心よりお待ちしております。


